AI新規事業の事例は何ができるかを知る材料にはなりますが、自社で何を始めるかまでは決めてくれません。月曜の企画会議で他社の成功事例をいくつも並べたのに、誰のどんな困りごとを解くかは決まらず、話がツール選びと予算に流れていく。ここでは、Leadfiveが社内でAIの仕組みを立ち上げた時に実際に止まった場所の記録と、自社で止まっている1工程を10分で選ぶ判断カードを載せます。

事例を集めても決まらないのはなぜ?止まるのは道具ではなく判断の置き場

事例が教えてくれるのは、よその会社で何が動いたかです。自社のどこで仕事が止まっているかは、事例の中には書かれていません。

左に黒い丸が6つ並んで線でつながり、右に黒い縦の柱から金色の横棒が伸びて先に丸い輪がある図

Leadfiveの記録を一つ紹介します。Leadfiveには、ブログ記事をAIが書き、別のAIが点検して公開する社内の仕組みがあります。9月26日から10月3日までの運用記録では、機械による事前の検査は29回合格していました。それでも10月3日は、原稿7本のうち6本が事前の検査に合格し、公開は0本でした。

止めていたものを記録から並べると、次の4つです。

止めていたもの 記録に残った中身 道具の性能の問題か
点検役のAIの不合格 出典の無い数字、冒頭の書き方、見出しの形など。どれも書く前に伝えられる規則で、書き手は点検の基準を知らされていなかった いいえ。基準の渡し方
公開先の受け入れ条件 原稿が、公開先の側で決めていた受け入れ条件に合わなかった いいえ。決まりの置き場
実行の権限 処理が、実行環境の権限の判定で拒否された いいえ。誰が許可するか
数え方 月ごとの約束なのに28日単位で数え、遅れが見えなかった いいえ。何を見て判断するか

記録に残った4つの中に、AIの道具の性能そのものは入っていませんでした。止まっていたのは、どの基準で、誰が、どこで止めるかという判断の置き場です。この記録を受けて、点検の基準を書く前の段階で書き手に渡す形へ作り直しました。

新規事業でも、同じことが起こりうると考えられます。事例をいくら集めても、自社の判断がどこで止まっているかは見えてこないからです。

国のAI事業者ガイドライン第1.2版も、対策の程度をリスクの大きさに対応させる考え方を取っています。手引きには、自社の事業規模や状況に合わせて過不足なく対応することが重要だと書かれています。同じAIの使い方でも、よその会社の条件がそのまま自社に当てはまるとは限りません。

たとえるなら、評判の店のレシピを集めても、自分の店の厨房でどの工程が詰まっているかは分からないのと同じです。先に見るのは自分の厨房です。

最初の1工程はどう選ぶ?10分の判断カードで止まった場所を書く

新規事業の流れを、顧客理解、仮説の比較、試作品づくり、運用の4つに分け、いま止まっている1つだけを選びます。

白いカードに5本の横線が並び、上から2本目の線と左の丸だけが金色の図

会議の10分で、次のカードを埋めます。右の列は空欄のまま印刷して使えます。埋められない欄があれば、そこがまだ確かめるべき場所です。

書く項目 書き方の例 自社の答え
対象の場面 役職ではなく、判断する場面を書く。例は、既存顧客から新しい相談を受けた時  
いま止まっている1工程 顧客理解、仮説の比較、試作品、運用から1つ  
AIへ渡せる材料 利用の許可がある資料を3種類以内  
AIが作る下準備 整理、比較、下書きのどれか1つ  
人が決めること 続ける、直す、止めるを誰が決めるか  
7日後に見ること 下の見直し表から選ぶ  
28日後に止める条件 下の見直し表から選ぶ  

売上を伸ばす、新規事業を考える、のような広い答えは、まだ1工程になっていません。3件の顧客メモから、共通する困りごとを分ける。ここまで小さくします。

工程ごとに、AIへ任せやすい下準備と、人が手元に残す判断は変わります。

工程 AIへ任せる下準備 人が残す判断
顧客理解 許可を得た会話記録から、困りごとと未確認の点を分ける 誰に何を聞き直すか
仮説の比較 複数の案の根拠、弱点、足りない情報を同じ形で並べる 次に確かめる1案
試作品 1画面、説明文、手順のたたき台をつくる 顧客に約束する内容
運用 繰り返す社内作業を分類し、下書きにする 公開、送信、価格、契約

4つをまとめて任せると、どの材料が悪く、どの判断で止まったかが分からなくなります。最初は1工程、1つの材料、1つの下準備にします。既存の業務で同じ選び方をする場合は、AIを試しても仕事が減らない社長へ。最初の1業務と止めどきも参考になります。

自社のどの工程が止まっているかを一緒に洗い出したい場合は、Leadfiveへのご相談からお問い合わせください。

AIに渡す前に何を書く?人が持つ判断と止める線を先に決める

AIへ渡す前に書くのは、できることより、ここで止めるという線です。

左に灰色の四角が3列3段に並び、縦線をはさんで右に黒い四角の中の金色の鍵穴の形がある図

AI事業者ガイドライン第1.2版の概要には、AIに単独で判断させるだけでなく、適切なタイミングで人間の判断を介在させる利用を検討することが挙げられています。どこで人が入るかを、使い始める前に決めておくということです。

Leadfiveの記録でも、点検役のAIが止めた理由は、どれも書く前に伝えられる規則で、書き手には渡っていませんでした。止める線を書いて渡しておけば、AIの下準備と人の判断がずれにくくなると考えられます。

社長の手元では、次の順で確かめます。

  1. 顧客への公開と送信。メールの送信ボタン、SNSの投稿画面、ホームページの公開ボタンを、AIが押せる設定になっていないかを見ます。
  2. 価格と契約。見積書の金額欄と契約書の条件欄を、人が最後に書き込む形になっているかを見ます。
  3. 個人情報。AIへ渡す資料に、氏名、電話番号、住所が残っていないかを1件ずつ見ます。
  4. 法令や安全に関わる判断。業界の決まりに触れる文言を、誰が最後に読むかを担当表で見ます。
  5. 根拠の無い箇所の扱い。AIの下準備で出典が分からない部分に、不明と書いて戻す約束があるかを指示文で見ます。

人が持つ鍵の置き方は、AIへ任せる前に社長が残す4つの鍵でも詳しく扱っています。

続けるか止めるかはいつ決める?7日後と28日後に見直す

始める前に、7日後と28日後に何を見て、どうなったら止めるかを書いておきます。

横の線の途中に金色の丸、先に黒い丸があり、そこから3本の線が3つの丸へ分かれ、真ん中だけが金色の図

7日後は、AIの出来を大きく採点する日ではありません。1回分の材料から1つの下準備をつくり、人がその根拠をたどれるかを見ます。次の表は、最初の小さな試みを長引かせないための記事からの提案です。自社の影響の大きさと確認にかけられる時間に合わせて、始める前に書き換えます。

見直す日 続ける条件 止める、または小さくする条件
7日後 下準備の根拠を元の材料までたどれ、人が次の判断を1つ決められた 出典が分からない、材料に無い内容が混ざる、確認する人が決まらない
28日後 同じ工程を繰り返せて、直す理由が減り、次に確かめることが1つ決まった 同じ指摘が2回以上続く、材料の不足が続く、判断が前へ進まない

Leadfiveの運用では、同じ直しが2回出たら、その直しを書き手への規則に1行足す決まりにしています。28日後の止める条件に同じ指摘の繰り返しを入れているのは、この考え方に沿ったものです。

週ごとにどこへ戻ったかを残すには、AI導入が定着しない会社へ。毎週見る4つの未記入欄が使えます。

事例はいつ見ればいい?1工程を決めた後に条件を確かめる

事例を見るのは、止まった1工程を決めた後です。その工程で何が要るか、何を見落としやすいかを確かめる材料として使います。

左に金色の四角、矢印をはさんで右に重なった白いカードと、その上に置かれた虫めがねの図

たとえば、顧客理解の工程を選んだなら、事例の中でも、どんな記録を材料にしたか、誰が最後に判断したかの部分だけを読みます。売上の伸びや導入した道具の名前は、自社の条件と違えば当てはまらない場合があります。

ここで、手順を示すための想定例を一つ置きます。実在の会社や成果ではありません。

ある小さな業務支援の会社が、新しい予約管理のサービスを考えています。会議が止まっているのは機能の案ではなく、次にどの困りごとを確かめるかでした。担当者は利用の許可を確かめ、氏名や連絡先を外した5件の顧客インタビューを用意します。

AIに頼むのは、発言を、繰り返し出た困りごと、一人だけの要望、まだ聞けていないこと、の3つに分け、元の発言の場所を添えるところまでです。新しい需要の推測はさせません。人は元の発言を読み、次のインタビューで聞く問いを1つ決めます。根拠をたどれない分類が1つでもあれば、その週は試作品へ進みません。

この例でAIが担うのは事業を決めることではなく、判断の材料を同じ形にそろえる1工程だけです。

1工程と止める線を、自社の仕事に合わせて組み立てたい場合は、LeadfiveのAI運用設計支援をご覧ください。

事例やAIの道具について、よく聞かれることは?

業界の成功事例は見なくてよいのでしょうか

見ます。ただし、最初の1工程を決めた後です。事例は、その工程で要る条件や見落としを確かめる材料として使い、自社の顧客の困りごとの代わりにはしません。

AIに事業案の最終決定まで任せられますか

最終決定は人が持ちます。AIには案の比較、根拠の整理、不明な点の洗い出しまでを任せ、顧客への約束、投資、価格、契約は責任者が決めます。

顧客の記録が無い時は何から始めますか

AIに顧客像をつくらせず、まず実際の顧客や候補の人へ聞く問いを1つ決めます。利用の許可を得た回答が集まってから、個人を特定できる情報を外して整理に使います。

先にAIの道具を選んではいけませんか

情報の扱いや利用条件を確かめるためには必要です。ただ、機能の比べ合いだけでは事業の仮説は決まりません。止まった1工程と人の判断を先に決めると、要る機能も絞りやすくなります。

出典

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